(画像はソニーピクチャーズ公式バイオハザードより)
ザック・クレッガー監督の新作『バイオハザード』を観てきた。
ただ、従来の『バイオハザード』を期待して観に行くと、結構な肩透かしとトラウマを食らうかもしれない。
ラクーンシティが舞台なのにゾンビは少ないし、ゲームでおなじみのキャラクターが活躍する映画でもない。主人公のドラマも、正直かなり薄い。
そしてその上で結構グロ描写もある。
それでも俺は、この映画が好きだった。
というのも今作は、ゲームの物語を再現するのではなく、ゲームをプレイしているときの不安や恐怖を映画にした作品だと感じたからだ。
今回は『バーバリアン』『WEAPONS』も観てきた立場から、ザック監督らしさも含めて感想を書いていこうと思う。
そのレビューも書いているのでぜひ見てみてほしい。
映画『バイオハザード』とは
『バイオハザード』は、2026年10月9日公開の実写映画。監督は『バーバリアン』『WEAPONS』のザック・クレッガーで、主演はオースティン・エイブラムス。上映時間は約94分だ。
主人公のブライアンは、医療品の配送を請け負う男。
ラクーンシティへ向かう仕事を引き受けたことで、恐ろしい一夜に巻き込まれていく。
これまで『バイオハザード』は、ミラ・ジョヴォヴィッチ主演の実写シリーズをはじめ、ゲームのキャラクターたちが登場するフルCG映画も制作されてきた。
あと前作の『ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』ね。
これも今作を見終わってから再度視聴したけど、やっぱりひどい。
今回の作品は、そのどちらとも違う。
レオンやジルの物語を再現するのではなく、ラクーンシティで起きた事件を、全く別の一般人の視点から描く映画だ。
ネタバレなし感想|原作の物語ではなく、プレイした感覚に忠実だった
今回の映画について、「別にバイオハザードじゃなくてもよかったんじゃないか」という感想が出てくるのは、よく分かる。
ただ、俺はこれを『バイオハザード』ではないとは思わなかった。
むしろゲームをプレイしているときの感覚は、過去の実写映画以上に強く感じる場面もあった。
ゲームの「この先に何かいる」が映画になっている
『バイオハザード』って、敵と戦っている瞬間だけが怖いゲームじゃない。
暗い廊下を歩いているとき。ドアを開けるとき。何もいないはずの部屋に入るとき。
むしろ、何が出てくるのか分からない時間の方が怖かったりする。
今作は、その感覚を映像にするのが非常にうまかった。
例えば、雪道に車のブレーキランプの赤い光が灯っている場面。
別に怪物が画面いっぱいに映っているわけじゃない。
でも、その画面自体が不穏なのだ。
こういう画作りは、やっぱりザック・クレッガーがうまい。
「ここには何かあるぞ」と観客に思わせる。
それだけで十分に怖い。
タイプライターだけじゃない。ステージの変化までバイオっぽい
ゲームを知っている人なら、思わずニヤッとする演出もある。
タイプライターが置かれた部屋や、ドアを開けるときのロード画面を思わせる演出。ショットガンの弾の色など、細かな部分にもゲームらしさがある。
さらに面白いのが、主人公の武器が徐々に強くなっていくこと。
最初はハンドガン。そこからショットガン、さらに強力な銃へ。
この感じ、めちゃくちゃゲームっぽい。
Xでは「狩野英孝のバイオハザード実況を見ているみたい」という感想も見かけたけど、確かに分からなくもない。
主人公のリアクションが面白いから、怖いのにどこか軽い。
そして俺が特に良かったと思ったのは、移動するたびにステージが変わっていくことだった。
『バイオハザード』って、街だけで戦うゲームじゃない。
病院へ行ったり、研究所へ行ったり、下水道へ行ったりする。
今作でも主人公は、ラクーンシティへ向かう途中でトラブルに遭い、さまざまな場所を経由することになる。
そのたびに雰囲気も、出てくる敵も変わっていく。
これについてザック監督は、インタビューで、主人公が目的地へ向かう途中、異なる環境や危険に次々遭遇するゲーム体験を映画にしたかったと説明している。
武器が徐々に強くなることも、弾薬を気にすることも、意図的に取り入れた要素だという。
なるほど、そりゃゲームっぽいわけだ。
小ネタを並べるだけじゃなく、ゲームを進めている感覚そのものを映画にしている。
俺はここがかなり好きだった。
ゾンビ映画として期待すると物足りない
一方で、ゾンビ映画としてはどうなのか。
ここは正直、物足りなかった。
ラクーンシティが舞台だと聞けば、当然ゾンビが大量に出てくる映画を想像する人もいると思う。
俺も、もう少しゾンビと戦っているところは見たかった。
ところが今作は、どちらかというと得体の知れないモンスターが何体か登場する映画になっている。
『遊星からの物体X』や『寄生獣』のような、肉体が変形・結合するタイプの恐怖に近い。
もちろん、それ自体は面白い。
『バーバリアン』を観ても分かるように、ザック監督はこういうモンスターを見せるのが好きなのかもしれない。
ただ、「いや、ゾンビ映画じゃないんかい!」というツッコミが出るのも、死ぬほど分かる。
ここは素直に、もっとゾンビが欲しかった。
ゲームの続きを見たいなら、フルCG映画という選択肢もある
そもそも『バイオハザード』の映画は、今回が初めてではない。
ミラ・ジョヴォヴィッチ主演の実写シリーズもあるし、ゲームのキャラクターがそのまま登場するフルCG映画もある。
ゲーム本編との繋がりや、レオンたちの活躍を求めるなら、フルCG映画の方が満足できる人もいると思う。
だから俺は、今回の映画にゲームの再現をすべて求める必要はないとも感じた。
これはザック・クレッガーの映画であり、同時に『バイオハザード』の映画でもある。
その両方を楽しめる人には、かなり面白い作品だと思う。
映画『バイオハザード』の配信は?
2026年10月10日時点では、本作は劇場公開が始まったばかり。
日本向けの正式な動画配信開始日は、現時点で確認できていない。
今作は不穏な画作りや、次々に変化する舞台を楽しむ映画でもあるので、個人的には劇場で観る価値があると思う。
ここからネタバレあり
主人公ブライアンがめちゃくちゃ面白い。でも、物語は薄い
今回の主人公ブライアン、俺はかなり好きだった。
とにかく親しみやすい。
怖い目に遭うたびにリアクションが面白くて、つい応援したくなる。
特に印象に残ったのが、ずっと「ファック! ファック!」と叫んでいること。
もう冒頭から最後まで、ずっと言っている。
ホラー映画なのに、主人公の反応でちょっと笑ってしまう。
こういうキャラクターを作るのは、ザック監督が非常にうまいと思う。
実際、監督はブライアンをゲームに放り込まれた普通のプレイヤーのような存在として考えたと語っている。
なるほど、確かにそうだ。
レオンのように戦闘訓練を受けた人間ではない。
普通の人間が突然こんな世界へ放り込まれたら、そりゃファックファック言うだろう。
ただし、主人公として好きだったことと、主人公の物語が面白かったことは別だ。
ここが今回、一番引っかかった部分でもある。
妊娠した恋人の話は、もっと掘り下げられたんじゃないか
ブライアンには恋人がいる。
しかも、その恋人は妊娠している。
ブライアンは父親になることに対して、まだ踏ん切りがついていない。
こんな設定を最初に見せられたら、当然どこかで大きく回収されると思うじゃないか。
ところが、映画が進むにつれて、この話はサバイバルの背景へと退いていく。
終盤には恋人への気持ちを伝えようとする場面もあるし、ブライアンなりの心境の変化は描かれている。
だから、全く回収されていないわけではない。
ただ、映画を観終わっても、一人の男が父親になる覚悟を決める物語を見たという感覚は、そこまで強く残らなかった。
というのも、今作はとにかく次から次へと恐ろしい出来事が起きる。
主人公も面白い。
だから観ている間は退屈しない。
でも、その主人公の内面については、あまり立ち止まって見せてくれないのだ。
産婦人科の赤ん坊には、ちゃんと意味があったらしい
ただ、全く何もなかったとも言い切れない。
終盤、ブライアンは研究所へ向かう前に、産婦人科を通ることになる。
そこで待っているのが、赤ん坊のような怪物たちだ。
これ、わざわざ産婦人科じゃなくてもよかったはずなんだよね。
主人公には妊娠中の恋人がいる。
そして父親になることへの迷いもある。
その主人公を、わざわざ赤ん坊の怪物がいる場所へ通す。
だから観ているときも、何かしらの意味があるんじゃないかとは思った。
鑑賞後に調べてみると、共同脚本家のシェイ・ハッテンが、まさにこの点について語っていた。
もともと妊娠の話は主人公の背景を説明する副筋だったが、脚本を書き進めるうちに、感染した少女との遭遇や産婦人科の場面が、父親になる準備のできていないブライアンの心理を映すものになっていったという。
なるほど、やっぱり意図はあったわけだ。
さらにザック監督は、ゲームシリーズで最も怖かった体験として、『バイオハザード ヴィレッジ』のベネヴィエント邸で巨大な赤ん坊に追われる場面を挙げている。
VRでプレイしていて、怖すぎて一度ヘッドセットを外したほどだったという。
だから今回の赤ん坊の怪物にも、そうしたゲーム体験が影響している可能性はある。ただし、直接の着想元だったと監督が明言したわけではない。
となると、父親になることへの恐怖と、監督自身がゲームで味わった恐怖が重なった場面なのかもしれない。
ただし、ここは言っておきたい。
制作側に意図があったことと、それが映画の中で十分に伝わったことは別だ。
インタビューを読めば理解できる。
でも映画を観ているときには、「あの妊娠の設定、結局どうなるんだ?」という疑問も残った。
俺は以前『バックルームズ』を観たときにも、似たようなことを感じた。
何かのメタファーなのかもしれない。でも、映画の中だけでは十分に読み取れない。
今回もそうだった。
だから「主人公の掘り下げが全くない」とまでは言わない。
ただ、かなり分かりづらいと思う。
ザック・クレッガーは、群像劇の方が得意なんじゃないか
今回の映画を観て、改めて考えたことがある。
ザック・クレッガーって、一人の主人公を掘り下げるより、視点を切り替えながら物語を進める方が得意なんじゃないか。
もちろん、監督の作品をすべて観たわけではないので、断定するつもりはない。
ただ、『バーバリアン』も『WEAPONS』も、途中で視点が変わる構成が非常に面白かった。
『バーバリアン』では、ある人物の視点で見ていた出来事が、別の人物の視点に切り替わることで全く違う意味を持ち始める。
『WEAPONS』でも、複数の人物を追いかけることで、少しずつ事件の全体像が見えてくる。
この構成が、俺はすごく好きだった。
だから以前、ザック監督が『バイオハザード』を撮ると聞いたとき、『バイオハザード アウトブレイク』みたいな映画が合うんじゃないかと考えていた。
『アウトブレイク』は、ラクーンシティで起きた事件を、さまざまな一般市民の視点から描くゲームだ。
もしザック監督がこれを群像劇として映画化したら、かなり面白いんじゃないか。
そう思っていた。
今回の映画は、主人公を一人に絞っている。
だからこそ、逃げ場のない恐怖やゲームをプレイしている感覚が生まれたのも確かだ。
でも、ドラマとしては薄くなってしまった。
ここは少し惜しかった。
ザック監督の良さは、怖い場面を作ることだけじゃない。
面白いキャラクターを配置して、視点を変えることで物語そのものを面白くしていくところにもあると思う。
だからこそ、今作でもその強みをもっと見たかった。
実は『バイオハザード2』の世界を想定していた
もう一つ、ゲームファンとして思ったこと。
せっかくラクーンシティが舞台なんだから、もう少しゲームとの繋がりを匂わせてもよかったんじゃないか。
例えば、
「これは『バイオハザード2』の少し前なのかな?」
「もしかすると『2』と『3』の間くらいの出来事なのか?」
と思わせる程度でもよかった。
別にレオンやジルを出してほしいわけではない。
ゲームの物語をなぞってほしいわけでもない。
ただ、ゲームの世界のどこかで、こんな事件も起きていたのかもしれないと思える余地が欲しかった。
ところが鑑賞後に調べてみると、ザック監督は『バイオハザード2』の世界を想定しており、ゲーム本編の傍らで起きた別の人物の物語だと説明していた。
なるほど、そもそも監督はそういうつもりで作っていたらしい。
ただ、映画を観ただけでは、その繋がりをもう少し感じたかった。
もちろん、ゲームの設定をそのまま使う必要はない。
でもラクーンシティという名前には、それだけファンの期待が乗っている。
だからこそ、そこをもう少し利用してもよかったと思う。
主人公が怪物になる結末は、実は変更されていた
今回の映画は、かなり思い切った終わり方をする。
ブライアンは最後に怪物になってしまう。
そして、助かる可能性が残されたまま、その希望も失われていく。
あれだけ面白くて、ずっと応援していた主人公が、最後には怪物になって終わる。
これはこれで、かなり面白かった。
ところが、この結末には制作段階で大きな変更があったらしい。
ザック監督はインタビューで、当初は治療薬がもっと早い段階で失われ、その後は怪物になったブライアンが研究者たちを殺していく展開だったと明かしている。
しかし、それでは観客が主人公を救いたいと思い続けられなくなる。
そこで編集と追加撮影によって、最後まで助かる可能性を残す構成に変更したという。
これを知って、かなり納得した。
俺はブライアンが好きだったし、ずっと応援していた。
だから最後に怪物になってしまうことにも、ちゃんとショックがあった。
監督は、その観客の気持ちを最後まで持続させようとしていたわけだ。
主人公への愛着を最後まで維持することには成功している。でも、主人公の人生を描き切ることには、もう少し時間が必要だった。
俺の感想は、たぶんここに尽きる。
続編があるようには、あまり見えなかった
主人公は怪物になってしまう。
周囲の人物もほとんど生き残らない。
恋人や子供の話も、すべてが綺麗に決着するわけではない。
だから観終わった段階では、続編があるようにはあまり感じなかった。
もちろん、ミラ・ジョヴォヴィッチ主演の実写版『バイオハザード』でも、前作に登場した人物が次作で敵として登場するような展開はあった。
今回のブライアンも、もし続編が作られるなら怪物として再登場する可能性はあるのかもしれない。
ただ、今作自体は一本で完結する、ちょっとしたお祭り映画のようにも感じた。
映画としては十分面白かったので、それでも別にいいと思う。
ただ、ゲームの『バイオハザード』というIPを今後さらに映画として広げていくことを考えるなら、少しもったいない気もした。
音楽は意外と控えめだった
これはザック監督の過去作を観てきたからこそ感じたこと。
『バーバリアン』や『WEAPONS』では、音楽の使い方もかなり印象的だった。
場面に合わせて楽曲を入れたり、ちょっと変わった雰囲気を作ったりする。
ザック監督は音楽が好きなんだろうな、と思っていた。
でも今回の『バイオハザード』では、そういう印象はあまりなかった。
エンディングは軽快で、いかにもザック監督らしい雰囲気があったけど、劇中ではそこまで音楽が目立たなかったように感じる。
その代わり、今回は映像そのものの不穏さや、ゲームをプレイしているような緊張感が前面に出ていた。
これはこれで、作品に合っていたと思う。
まとめ|バイオハザードとして物足りない。でも、映画としては大好きだった
今回の『バイオハザード』には、不満もある。
ゾンビはもっと欲しかった。
主人公のドラマも、もう少し掘り下げてほしかった。
ラクーンシティを舞台にするなら、ゲームとの繋がりも少し感じたかった。
ただ、不思議なことに、「このシーンはつまらなかった」という場面がほとんどない。
怖がらせ方がうまい。
画作りがうまい。
主人公のリアクションが面白い。
場所が変わるたびに新しい恐怖が待っている。
とにかく退屈しなかった。
ゲームのストーリーを忠実に再現した映画ではない。
でも、ゲームをプレイしているときの不安感や、次のステージへ進んでいく楽しさは確かにあった。
だから俺は、この映画を『バイオハザード』ではないとは思わない。
ザック・クレッガーの映画としても面白かったし、『バイオハザード』の映画としても楽しめた。
ただし、ゾンビ映画を期待して観に行く人には、少し注意が必要かもしれない。




