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2026年10月23日からAmazon Prime Videoで独占配信が始まった映画『てんてん ずっと独身でいるつもり?』を観た。
主演は森香澄。共演に若葉竜也、香椎由宇。
特に楽しみにしていたわけでもなく、新しく配信が始まったという情報を見かけて、なんとなく再生してみた。
観終わった感想は、正直あまり面白くなかった。
ただし、退屈だったわけではない。
さらに気になったのがタイトルだ。
いや、この人たち別にずっと独身でいるつもりじゃないだろ。
そんな疑問が残ったので、2021年に田中みな実主演で劇場公開された前作『ずっと独身でいるつもり?』も観てみた。
すると、こちらの方が面白かった。
前作も決して大事件が次々に起こるような映画ではない。それでも、登場人物たちの結婚観や、その価値観が揺らぐ瞬間がしっかり描かれていた。
今回の『てんてん』と何が違うのか。
今回は両作品を比較しながら、原作漫画、監督や出演者のインタビュー、Prime Video独占配信という制作・公開背景についても調べてみた。
『ずっと独身でいるつもり?』シリーズの作品情報
まず、2作品の違いを簡単に整理しておこう。
| 項目 | 前作(2021年) | 今作(2026年) |
|---|---|---|
| 作品名 | ずっと独身でいるつもり? | てんてん ずっと独身でいるつもり? |
| 主演 | 田中みな実 | 森香澄 |
| 監督 | ふくだももこ | 箱田優子 |
| 脚本 | 坪田文 | 港岳彦 |
| 上映時間 | 94分 | 115分 |
| 公開方法 | 劇場公開 | Prime Video独占配信 |
| 物語 | 原作漫画を大きく脚色 | 映画オリジナルストーリー |
| 製作 | 日活 | 日活 |
2021年版は田中みな実の映画初主演作。
そして今回の2026年版は森香澄の映画初主演作となっている。
共通するのは、独身者たちの生き方を描いた作品であること。
ただし、主演だけでなく、監督も脚本家も変更されている。
そのため、同じ人物たちのその後を描いた直接的な続編ではない。
シリーズのテーマを引き継いだ、別の群像劇として観るのが自然だと思う。
『てんてん ずっと独身でいるつもり?』のあらすじ
今回の『てんてん』では、3人の独身男女が主人公となる。
森香澄演じるヤマダミサキは30歳。
かつて半地下アイドルとして活動していたものの、その後は仕事や居場所を転々としてきた。
今は友人の紹介でホームヘルパーとして働いているが、恋人の浮気が発覚し、仕事でも問題を抱えるようになる。
若葉竜也演じるシバは38歳。
葬儀社で働きながら、人との関わりを避けるように生きてきた男性だ。
そんな彼が姉の息子を預かることになり、他人と向き合わざるを得なくなる。
そして香椎由宇演じるシミズは46歳。
仕事を優先して生きてきたデザイナーだが、父親が倒れたことで介護と仕事の間で悩むことになる。
自分には何もないと思っている女性。
人との距離がわからない男性。
仕事と家族の間で選択を迫られる女性。
それぞれが人生の問題に直面し、自分の居場所を探していく。
そんな物語だ。
ネタバレなし感想|退屈ではないのに面白くなかった
最初に書いたように、この映画は決して退屈ではなかった。
登場人物に問題が起こり、それをどうするのか悩み、少しずつ状況が変わっていく。
映画の中で提示されたものは、それなりに丁寧に拾われている。
観ていて話についていけなくなることもない。
ただ、面白かったかと言われると、そうでもない。
その理由は、登場人物の描き方にあると思う。
この映画の登場人物たちは、テーマを説明するために用意された駒のように見えてしまった。
それぞれ違う悩みを持っている。
それはわかる。
でも、悩みがわかることと、その人物の人生に興味を持てることは別だ。
ここに違いを感じた。
共感できる人には、かなり刺さる映画だと思う
例えば山田の悩みは、十分現実的だと思う。
可愛くて愛嬌もあるのに、恋愛もうまくいかない。
周囲から見れば恵まれているようでも、自分には何もないと感じている。
他人と自分を比べてしまうし、何者かにならなければいけないような焦りもある。
そういう悩みを抱えている人は実際にいるだろう。
自分と近い年齢や境遇の人物が、同じように悩んでいる姿を見ることで救われる人もいると思う。
この映画は、登場人物たちを無理に成功者へ変える作品ではない。
現実の人生なんて、そんなに簡単に変わらない。
だからこそ、少し前向きになれたことを大切にしているのだろう。
そこは理解できる。
ただ、俺の場合は登場人物にそれほど感情移入できなかった。
そして、感情移入できないまま観終わると、物語自体の物足りなさが残ってしまう。
森香澄の演技は悪くない。香椎由宇は素晴らしかった
主演の森香澄については、悪くなかったと思う。
ただ、俺がイメージしている森香澄のまんますぎて、あまり演技を観ている感覚がなかった。
それほど自然だったとも言えるし、彼女の魅力を見せる映画としては成功しているのかもしれない。
一方、香椎由宇は本当に素晴らしかった。
3人の中では清水の物語に最も興味を持てたし、彼女が抱える問題にも重みがあった。
だからこそ、もっと清水の話を観たかった。
詳しくはネタバレ感想で触れたい。
『てんてん』と前作『ずっと独身でいるつもり?』の配信はどこ?
2026年10月23日から、『てんてん ずっと独身でいるつもり?』はAmazon Prime Videoで独占配信されている。
一方、田中みな実主演の2021年版も、2026年10月時点でPrime Videoの見放題配信が掲載されている。
今回の感想を読むなら、ぜひ2作品を見比べてほしい。
特に前作をまだ観ていない人には、一度観てから『てんてん』へ進むのもおすすめしたい。
現在の配信状況は各動画配信サービスでご確認ください。
※配信状況は変更される場合があります。
※配信状況や視聴条件は変更される場合があります。各作品の最新情報はPrime Videoで確認してください。
原作漫画と映画はどう違う?『ずっと独身でいるつもり?』の始まり
そもそも、このシリーズには原作がある。
原点となったのは、雨宮まみが2013年に刊行したエッセイ集『ずっと独身でいるつもり?』。
それを漫画家のおかざき真里が漫画化し、2015年に単行本が刊行された。
原作漫画では、まみ、由紀乃、シミズという3人の独身女性を中心に物語が進む。
結婚していないというだけで、周囲からかわいそうだと思われる。
仕事もしているし、自分の生活もある。
でも結婚していなければ、それだけで何かが足りないように扱われてしまう。
そんな社会の価値観に対する疑問が、作品の出発点になっている。
2021年版も原作に忠実な映画ではない
2021年の映画は原作漫画の実写化だが、内容は大きく変更されている。
例えば、松村沙友理演じる美穂は原作漫画には登場しない、映画オリジナルのキャラクターだ。
つまり、前作も単に漫画のストーリーを映像化しただけではない。
新たな人物を加え、映画として再構成した作品なのだ。
そして今回の『てんてん』は、さらに踏み込んで映画オリジナルストーリーとして作られている。
ちなみに原作漫画には、仕事を優先して生きる「シミズ」という女性が登場する。
今回の香椎由宇演じる清水と共通する部分もあるが、原作漫画は今回まだ読んでいない。
漫画と映画の具体的な場面比較については、ここでは踏み込まないでおく。
監督も主演も違う。前作は田中みな実、今作は森香澄
もう一つ興味深かったのが、2作品の企画背景だ。
2021年版の監督はふくだももこ。
2026年版の監督は箱田優子。
そして前作の田中みな実、今作の森香澄は、どちらも映画初主演となる。
今回『てんてん』を観て、正直こう感じた。
森香澄に主演をやらせるために作った映画なんじゃないか。
もちろん、これは観客としての印象であって、実際の企画意図を知っているわけではない。
ただ、前作について調べると、さらに面白いことがわかった。
前作の監督も「田中みな実を撮りたかった」と語っていた
ふくだももこ監督は2021年のインタビューで、田中みな実を撮りたいと思ったことが、本作を引き受けた大きな理由だったと語っている。
つまり、前作も主演女優の存在が企画において重要だったわけだ。
それなら、森香澄の存在感が強い今作だけを批判するのは違うかもしれない。
むしろ重要なのは、その先だと思う。
主演女優を見せるための映画であっても、物語として面白ければ何も問題はない。
前作は田中みな実を主演に据えながら、ほかの人物にも見せ場があり、それぞれの結婚観が映画のテーマと結びついていた。
今作で物足りなかったのは、森香澄が中心にいたこと自体ではない。
それぞれの人物を描いた結果、何が残るのか。
そこが違うと感じた。
箱田優子監督が描きたかったのは「居場所」
一方、今回の箱田優子監督は、登場人物を川底の小石になぞらえ、川を眺めるように映画を観てほしいという趣旨のコメントをしている。
なるほど。
そう考えると、今回の『てんてん』が強い起伏を持たず、日常の中で少しずつ変わっていく人物を描いていることにも納得できる。
監督が目指していたのは、人生の大きな成功や劇的な解決ではなかったのだろう。
それぞれの人間が、それぞれの速度で生きている。
その姿を見つめる映画だったのだと思う。
ただ、俺にはそこが映画としての面白さに結びつかなかった。
静かに人生を見つめる作品であることと、登場人物の人生が十分に描かれていることは、別の話だからだ。
そういう作品の良さはわかってるつもりなんだけどね…
森香澄のイメージについて、監督と俺の印象は逆だった
箱田監督は、森香澄演じる山田について、本人のパブリックイメージとは逆の人物として語っている。
これは少し意外だった。
俺には、むしろ森香澄そのものに見えたからだ。
もちろん、監督が考える森香澄のイメージと、俺が普段抱いているイメージは違うのだろう。
そして、そう感じるほど自然な演技だったこと自体は悪くない。
でも役者本人の印象を超えて、山田という一人の人間に強く惹かれたかというと、そうではなかった。
Prime Video独占配信の映画として作られた『てんてん』
公開方法にも違いがある。
2021年版は劇場公開作品だった。
一方、2026年版の『てんてん』はPrime Video独占配信として登場した。
製作は日活、制作プロダクションはジャンゴフィルム。
Amazonのサービスで独占配信されているが、Amazon自身が企画・製作した「Amazon Original」であることまでは、確認した公式資料からは断定できなかった。
ここは分けて考えたい。
日活が関わった作品がPrime Videoで独占配信される例は、ほかにもある。
例えば黒沢清監督の『Cloud クラウド』は、2024年9月に劇場公開されたあと、同年12月からPrime Videoで見放題独占配信された。
ただし、こちらは劇場公開を経てからの配信なので、『てんてん』とは異なる。
一方、今回の『てんてん』は配信で初めて観客に届けられた作品だ。
正直、もし劇場公開されていたら、俺は観に行かなかったかもしれない。
でもPrime Videoで新作映画として配信されたから、なんとなく再生した。
そう考えると、配信という公開方法にも意味はあったのだろう。
映画館へ足を運ぶほど強い興味がなかった人にも、作品を届けることができる。
少なくとも俺は、その一人だった。
ほかの人の評価は?『てんてん』は意外と好評
俺は面白くなかったけど、ほかの人の評価はどうなのか。
Filmarksでは、2026年10月26日時点で5点満点中4.0という評価が掲載されていた。
配信開始からまだ日が浅く、試写会で鑑賞した人のレビューも含まれるため、今後評価が変わる可能性はある。
実際の感想を見ると、山田の悩みに共感した人や、人生の小さな変化を肯定的に受け止めた人がいる。
一方、3人の物語がもっと深く交わってほしかった、という意見も見られた。
また、前作との比較では、今回の映画が結婚観だけでなく仕事や介護など、より広い人生の問題を扱っていることを評価する声もある。
そこは俺も理解できる。
現実には結婚だけが人生の問題じゃないし、独身であることより仕事や家族のことで悩んでいる人もいるだろう。
そういう人に寄り添う作品として、この映画が支持されているのもわかる。
ただ、ここまで調べても、俺の評価は大きく変わらなかった。
むしろ前作を観たことで、何が物足りなかったのか、少しはっきりした気がする。
ここからネタバレあり|2021年版と2026年版を比較する
ここからは両作品の結末に触れる。
まだ観ていない人は注意してほしい。
前作のほうが面白かった理由|結婚観の違いが物語になっていた
2021年版を観てまず思ったのは、こっちのほうが『ずっと独身でいるつもり?』というタイトルにふさわしいということだ。
田中みな実演じるまみ。
市川実和子演じる由紀乃。
徳永えり演じる彩佳。
そして松村沙友理演じる美穂。
4人はそれぞれ異なる結婚観を持っている。
しかも、単に価値観が違うだけではない。
その価値観がほかの人物とぶつかり、揺らぎ、やがて行動につながっていく。
ここが今回の『てんてん』と大きく違うところだった。
まみが結婚を取りやめる場面がよかった
前作で特に印象に残ったのは、まみが結婚を取りやめたいと恋人に伝える場面だ。
まみは自立した女性の生き方を発信する作家でありながら、自分自身は仕事や恋愛に迷っている。
でも、相手との価値観の違いは埋まらない。
結婚するために、仕事を含めた自分の生き方を変えることを求められる。
そこで、まみは結婚をやめることを選ぶ。
これがよかった。
まみが何を大切にしているのか、はっきり見えるからだ。
結婚という幸せを手に入れることより、自分自身の人生を守ることを選んだ。
当然、その選択には痛みがある。
でも、だからこそ納得できる。
「私はこれから自分で決めます」という宣言だけではない。
実際に一つの選択をして、その結果を引き受けている。
そこに人物の強さも弱さも見えた。
由紀乃が叫ぶ場面には、結婚への幻想が崩れる瞬間があった
もう一つ印象に残ったのが、由紀乃が叫ぶ場面だ。
由紀乃は、結婚すれば寂しさから解放されると思っていた。
一人で生きていくことの不安や、自分だけが取り残されていくような感覚。
そこから抜け出すための答えが、結婚なのかもしれない。
でも、既婚者である彩佳にも孤独があることを知る。
結婚しても寂しさはなくならない。
信じていた幸せの形が崩れてしまう。
そこで感情が爆発する。
あの叫びがよかった。
まみは結婚することの違和感に気づき、結婚を取りやめる。
一方、由紀乃は結婚すれば寂しさが消えると信じていたのに、それが必ずしも正しくないと知る。
同じ「結婚」というテーマに、まったく違う立場から向き合っている。
そしてこの2人の考え方は、決して無関係ではない。
まみが発信してきた自立した女性の姿に、由紀乃は影響を受けている。
だからこそ、まみ自身が迷い、変化することが由紀乃にも影響する。
前作はこういう人物同士のつながりが面白かった。
松村沙友理の美穂にも、ちゃんと物語の着地点があった
そして、松村沙友理演じる美穂もよかった。
美穂はパパ活で生計を立てている女性だ。
若さや容姿が武器になる世界で生きているが、それがいつまでも続くわけではないことも感じている。
この人物は、実は映画オリジナルのキャラクター。
原作漫画には登場しない。
ふくだももこ監督は、ほかの人物とは違う結婚観を持った女性を登場させたかったとインタビューで語っている。
確かに、美穂の存在には意味があったと思う。
美穂は、結婚を人生の重大な決断として考えるまみや由紀乃とは違う価値観を持っている。
そして、物語の最後にはそれまでの生活と決別し、タクシー運転手として新しい道を歩み始める。
これもよかった。
別に、タクシー運転手になったから立派になったという話ではない。
それまで頼ってきたものから離れて、自分の生活を自分で変えたことに意味がある。
しかも松村沙友理の演技もよかった。
愛嬌のある表情と、そこからこぼれる本音。
美穂という人物を、単なるパパ活女子で終わらせなかったと思う。
こうして振り返ると、前作は登場人物それぞれに、映画の中での意味と着地点があった。
彩佳がいるから「結婚すれば幸せ」という話にならない
そして忘れてはいけないのが、徳永えり演じる彩佳だ。
彩佳はすでに結婚して子どももいる。
一見すると、ほかの独身女性たちが求めている幸せを手に入れた人物だ。
でも、実際には夫への不満もあるし、自分の人生に対する後悔もある。
結婚して家庭を持ったところで、悩みが消えるわけではない。
この人物がいることで、映画は「結婚できるかどうか」だけの話ではなくなる。
結婚してもしなくても、人間はそれぞれ違う問題を抱えている。
そのことが、独身女性たちの物語と対比されている。
そして彩佳自身も、仕事を再び始めたいという意思を示す。
彼女にもちゃんと一歩がある。
前作は4人の話を通して、結婚という共通のテーマを違う方向から描いていた。
だからこそ、この4人で一本の映画を作る意味があったと思う。
『てんてん』では、それぞれの悩みが並んでいるだけに見えた
一方、今回の『てんてん』はどうだったか。
山田、シバ、清水。
3人が抱えている問題は、それぞれわかりやすい。
ただ、その問題が一つの映画の中でどのようにつながっているのか。
俺には、あまり強く感じられなかった。
山田は自分で決めようと思う。でも「それで?」となってしまった
森香澄演じる山田は、周囲に流されて生きてきた人物だ。
恋愛もうまくいかない。
仕事も続かない。
将来の目標もない。
そんな彼女が、最後には友人の言葉をきっかけに自分自身を見つめ直す。
そして、人に流されるのではなく、自分で決めようと思うようになる。
もちろん、それはいいことだ。
自分の意思で人生を選ぼうと思えたのだから、成長ではある。
ただ、俺にはどうしても、それで?という感覚が残った。
それまで山田のことを応援したくなるほど感情移入していなかったからだと思う。
そもそも彼女が抱えている問題には、自分自身の行動が原因になっている部分もある。
だから、見ていて「いや、お前が悪くね?」と思ってしまうこともあった。
別に主人公が正しい人間である必要はない。
でも、欠点のある人物が最後に少し前向きになったからといって、それだけで感動できるわけでもない。
前作のまみは、実際に結婚を取りやめるという決断をした。
今回の山田は、自分で決めてみようと思った。
両方とも、自分の人生を自分で選ぶという点ではつながっている。
ただ、俺にはその選択の重みが違って見えた。
シバは人に頼れるようになる。でも、その変化が物足りない
若葉竜也演じるシバは、他人と関わることを避けてきた人物。
姉の息子を預かることになり、山田とも交流しながら、少しずつ他人との距離を縮めていく。
そして最後には、人に甘えたり、頼ったりできるようになる。
それ自体は悪くない。
ただ、俺の印象としては、それ以上でも以下でもなかった。
もちろん、過去の傷が全部なくなる必要はないし、人生が劇的に変わる必要もない。
でも、小さな変化しか起こらない物語だからこそ、その変化にどれほどの意味があるのかを感じさせてほしかった。
前作の由紀乃は、自分が信じていた幸せの形が崩れてしまう。
だから、彼女の叫びには重みがある。
一方、シバが人を頼れるようになったことには、そこまでの感情を抱けなかった。
作品が目指しているものは理解できる。
でも、俺には物語として響かなかった。
清水には選択の重みがあった。だから一番よかった
そんな中で、一番興味を持てたのが清水だった。
香椎由宇の演技も素晴らしかった。
清水は仕事を優先してきた女性だ。
しかし、部下との摩擦もあり、自分自身の限界も感じていた。
そこに父親の介護という問題が重なる。
そして彼女は、仕事中心の生活から離れ、父親と喫茶店を始めることを決める。
この決断には納得できた。
それまでの描写を見ていれば、清水がそういう選択をする理由がわかる。
大事なのは、何を犠牲にして、何を大切にしようとしたのかが見えることだと思う。
清水にはそれがあった。
前作のまみや美穂にも感じられた、具体的な選択の重みがあった。
だから、3人の中で清水の物語が一番気になった。
ただし、一つ大きな不満がある。
清水は最後、ほかの主人公たちのための喫茶店の店主になってしまった
清水は大きな決断をして、父親と喫茶店を始める。
でも、その後の扱いがあまりにもあっさりしている。
ほかの主人公たちが飯を食いに来る場所を提供するだけのようになってしまった。
なんというか、さっきまで主人公だったはずなのに、最後は喫茶店の店主というモブみたいな扱いになってしまう。
これは本当にもったいない。
もちろん、3人が集まる場所として喫茶店を使いたかったのだろう。
「居場所」というテーマの象徴にもなっている。
そこは理解できる。
でも、そのために清水という人物が舞台装置になってしまったように見えた。
今回、一番大きな決断をしたのは清水だと思う。
そして一番物語に興味を持てたのも清水だった。
だからこそ、その先をもっと観たかった。
一番気になった人物なのに、一番おざなりだった。
この辺は同じ群像劇の「サイバーパンクエッジランナーズ2」のウィーク(キング)も同じような印象だった。
この点が、今回の映画で最も残念だったところだ。
前作と今作の決定的な違いは、人物の価値観がぶつかっているかどうか
ここまで書いて、ようやく前作の方が面白かった理由が整理できてきた。
前作のまみは、結婚をやめる。
由紀乃は、結婚すれば幸せになれるという考え方を問い直す。
美穂は、それまでの生き方を変えて新たな仕事に就く。
彩佳も、結婚生活の中で自分の意思を持ち始める。
それぞれが違う立場にいるけれど、全員が結婚や幸せという共通の問題とつながっている。
そして、ある人物の言葉や行動が、別の人物の考え方にも影響している。
結婚という一つのテーマに対して、登場人物たちの価値観がぶつかっているのだ。
一方、今回の『てんてん』は、3人がそれぞれ別の悩みを抱えている。
山田は、自分の人生を自分で選べない。
シバは、人との距離がわからない。
清水は、仕事と家族の間で悩む。
どれも現実にありそうな問題だ。
でも、それぞれが自分の問題を抱え、それぞれが少しずつ前に進む。
その結果、3人が集まる場所ができる。
映画が描きたい「居場所」というテーマは理解できる。
ただ、それならなぜこの3人を一つの映画で描く必要があったのか。
そこが少し弱かったように感じる。
別に群像劇の登場人物たちが、全員直接関わり合う必要はない。
でも、別々の物語を並べるなら、その対比から何かが浮かび上がってほしい。
前作にはそれがあった。
今作には、それが足りなかった。
『ずっと独身でいるつもり?』というタイトルの意味も、前作の方が明確だった
そもそも、今回の『てんてん』を観終わったとき、タイトルの意味がよくわからなかった。
いや、別にこの3人はずっと独身でいるつもりじゃないだろ。
山田は誰かと生きていきたいと思っている。
シバの問題は結婚よりも人間関係だ。
清水に至っては、仕事と父親の介護という問題が中心にある。
結婚するかどうかというテーマと、あまり直接つながっていないように感じた。
でも、前作を観たことで、このタイトルが本来持っていた意味は理解できた。
『ずっと独身でいるつもり?』
これは、登場人物たちが自分自身に問いかけている言葉であると同時に、周囲から投げかけられる言葉でもある。
結婚しないと幸せになれないのか。
結婚すれば寂しくなくなるのか。
結婚している人間は、独身者より幸せなのか。
前作は、そうした問いを4人の女性を通して描いていた。
だからタイトルが生きていたのだと思う。
一方、今作では結婚というテーマを広げ、仕事や介護、人間関係など、人生全体の問題へ移している。
その方向性自体は理解できる。
ただ、そこまで広げてしまうと、『ずっと独身でいるつもり?』というタイトルである必要があるのかという疑問が残る。
「独身」という共通点が、登場人物たちを一つの作品につなぐには少し弱かったのだと思う。
それでも『てんてん』が好きな人の気持ちはわかる
ただ、『てんてん』が好きだという人の感想も理解できる。
山田に共感できる人。
自分には夢も目標もなく、周囲と比較して焦ってしまう。
何をしたいのかわからないまま、なんとなく毎日を過ごしている。
そういう人にとっては、山田が自分の意思で決めようと思えたことが、大きな一歩に感じられるのだろう。
シバのように、人との関係に疲れてしまった経験がある人もいると思う。
清水のように、仕事や家族の責任によって人生の選択を迫られる人もいる。
この映画は、そういう人たちに寄り添ってくれる作品だ。
ただ、共感できることと、映画として面白いことは別だと思ってる。
俺の場合は、そこまで人物に共感できなかった。
そして前作を観てみると、共感できるかどうかだけで作品を評価していたわけではないことにも気づいた。
前作の登場人物たちも、別に全員好きだったわけではない。
でも、彼女たちの価値観がぶつかる場面や、自分で人生を選ぶ場面には興味を持てた。
そこが大きな違いだった。
まとめ|前作の方が面白かった。でも『てんてん』が救いになる人もいると思う
2021年版『ずっと独身でいるつもり?』と、2026年版『てんてん ずっと独身でいるつもり?』。
両方観た結果、俺は前作の方が面白かった。
前作は、まみが結婚を取りやめる場面、由紀乃が叫ぶ場面、そして美穂が新たな人生を歩み始める結末が印象的だった。
それぞれの人物が異なる結婚観を持ち、その価値観がぶつかり合っていた。
そして、最後にはそれぞれの物語に着地点があった。
一方、今回の『てんてん』は、悩みを抱えた人に寄り添う作品としては成立していると思う。
ただ、人物の変化が小さく、3人の物語のつながりも薄く感じた。
今の自分に重なる悩みがある人には、きっと刺さる映画だと思う。
ただ、俺には合わなかった。
そして前作を観たことで、もっとはっきりした。
俺が求めていたのは、人物が何を選び、何を諦め、それでも何を大切にして生きていくのかという部分だった。
前作にはそれがあった。
今回、最も強く残ったのはそんな感想だった。
2作品を観るならPrime Videoで
今回比較した2作品は、どちらもPrime Videoで視聴できる作品として掲載されている。
個人的なおすすめは、まず2021年版『ずっと独身でいるつもり?』。
結婚というテーマをめぐって、登場人物たちの価値観がぶつかる物語を楽しめた。
そして今作『てんてん』は、今の人生に迷っていたり、自分の居場所について考えていたりする人なら、違った受け取り方ができると思う。
どちらか片方だけでも観られるが、両方見比べてみるのも面白い。
現在の配信状況は各動画配信サービスでご確認ください。
※配信状況は変更される場合があります。
初めてAmazonプライムを利用する人は、無料体験の対象かどうかも確認してみるといいと思う。
